景観の良さから、高台の土地は人気があります。しかし、高台エリアにはさまざまな規制があることをご存じですか?
その中でも特によく耳にするのが『宅地造成工事規制区域』です。
土地の安さや景観だけに惹かれてよく調べずに購入すると、災害時に自分や家族の身を危険に晒し、後悔に襲われることも…。
この記事では『宅地造成』や『宅地造成工事規制区域』、そして宅地造成等規制法から改正された『宅地造成及び特定盛土等規制法」(通称「盛土規制法」)』をわかりやすく解説します!
高台の土地にある住宅の購入を検討している人は、これらをしっかり理解した上で納得のいく選択をしてくださいね。
嵯峨根 拓未(株式会社ドレメ 取締役(現場責任者))
資格:一級建築士、宅地建物取引士
戸建て住宅、ヴィラ、グランピング等幅広い物件の現場を経験。
実際の経験を基に、あなたのおうちの悩みを解決します
宅地造成と盛土・切土の基本をわかりやすく解説
まず、宅地造成について解説していきます。
宅地造成とは
宅地造成(たくちぞうせい)とは、住宅を建てるために土地を整備することを指します。
例えば、元々農地だった場所や森林だった場所を、建物を建てられる土地に生まれ変わらせるため、傾斜のある土地の形状を変更したり、地盤を強化したりします。
具体的には、以下のような作業が行われます。
盛土とは、土地の形状を整えたり、地盤の高さを調整したりするために、土砂を積み上げることを指します。宅地造成や建設工事において、土地を平らにしたり、地盤を強化したりするために行われます。
宅地造成で行う切土とは?
切土とは、土地を造成する際に、斜面や高い場所の土を削り取って地面を平らにする工事のことを指します。これは、建物を建てるための平坦な土地を作るために行われる一般的な工法の一つです。
宅地造成等規制法から宅地造成及び特定盛土等規制法(通称:盛土規制法)へ
まだ記憶に新しい、2021年7月に静岡県熱海市で発生した大規模な土石流災害。
28名もの尊い命が奪われてしまいました。この災害は、いい加減な宅地造成工事による、大雨での盛土の崩壊でした。
これを受けて、令和5年5月26日に宅地造成等規制法は、「宅地造成及び特定盛土等規制法」(通称「盛土規制法」)に改正。
令和3年、静岡県熱海市で大雨に伴って盛土が崩落し、大規模な土石流災害が発生したことや、危険な盛土等に関する法律による規制が必ずしも十分でないエリアが存在していること等を踏まえ、「宅地造成等規制法」を抜本的に改正して、「宅地造成及び特定盛土等規制法」とし、土地の用途にかかわらず、危険な盛土等を包括的に規制します。 -国土交通省
災害を教訓に、より厳格な規制と安全対策を導入する方向で行われました。
以下が主な変更点です。
- 規制対象の拡大:旧法では主に宅地造成工事が対象でしたが、新法では「特定盛土」も規制対象に追加されました。これにより、住宅地以外の土地における大規模な盛土工事も規制の対象となります。
- 特定盛土の定義:新法では、一定規模以上の盛土を「特定盛土」と定義し、規制の対象としました。これにより、特定盛土に関する詳細な安全対策が義務付けられます。
- 許可制度の強化:盛土工事を行うためには事前に許可を取得することが必要となり、許可基準が厳格化されました。これには、地質調査や安全対策の計画が含まれます。
- 監視・管理体制の強化:施工中および施工後の盛土の安全性を確保するため、自治体による監視・管理体制が強化されました。定期的な検査や監視が義務付けられています。
- 罰則の厳格化:規制に違反した場合の罰則が厳しくなり、重大な違反には刑事罰が科されることもあります。これにより、法の遵守が強く求められます。
- 技術基準の見直し:盛土工事に関する技術基準が見直され、安全性を確保するための新たな要件が導入されました。これには、適切な土質選定や排水設備の設置などが含まれます。
- 情報公開の強化:土地の購入者や住民に対して、盛土に関する情報の公開が強化されました。これにより、土地の安全性についての透明性が高まり、住民が安心して土地を購入・利用できるようになります。
宅地造成工事規制区域とは
盛土規制法では、規制区域が指定されます。
宅地造成工事規制区域のイメージ
盛土規制法で指定される宅地造成工事規制区域(たくちぞうせいこうじきせいくいき)とは、住宅地を造成するための工事が行われる地域のうち、特に安全性や環境保護の観点から特別な規制が必要とされる区域のことを指します。
つまり、すでに住宅のある市街地、または今後市街地になるかもしれないエリアに対するものです。
これは、災害の発生を防止し、居住者の安全を確保するために設けられています。
規制区域のイメージは以下の通り。
宅地造成工事規制区域の指定や工事の許可は誰が行う?
規制区域は、都道府県や市が、地形や地質に関する基礎調査の結果をふまえ、市町村の意見を聞いた上で指定。指定されると、都道府県や市のWEBサイト等で確認することが可能になります。
また、宅地造成工事規制区域での工事の許可は、都道府県知事が行います。
規制区域内での宅地造成工事を行う場合、事前に都道府県知事へ申請し許可を得る必要があり、この申請は工事計画が安全であり、規定に適合していることを確認するために行われます。
宅地造成工事規制区域の住宅や土地を購入をする場合の注意点
宅地造成工事規制区域にすでに建っている住宅を購入する場合、新築の場合と中古の場合では、以下の点に注意することが重要です。
土地を購入して、新築する場合
分譲地を購入して、戸建てを新築する場合には、以下に留意しましょう。
- 検査済証の確認
住宅用の分譲地を販売する場合は、すでに造成工事は終えられているため、造成費用がかかることはありませんが、工事が基準に適合していることを証明する検査済証を必ず確認しましょう。 - 規制内容の確認
規制区域に指定されている理由や具体的な規制内容がどのようなものか確認しておきましょう。土砂災害や地滑りのリスクが高い地域であるため、どのような理由で規制が適用されるのかを理解しておくことが大切です。 - 周辺環境の調査周辺の環境やインフラの状況を確認します。過去の災害履歴や現在のリスク評価を収集し、地域の安全性を確認しておいた方がよいでしょう。
- 保険の検討土砂災害や地震のリスクに備え、適切な保険に加入します。住宅保険や地震保険の適用範囲を確認し、必要に応じて追加の保険を検討しておく方がベターです。
- 長期的な維持管理新築後も定期的に点検やメンテナンスを行い、地盤や構造の安全性を維持しましょう。特に、盛土や擁壁、排水設備の状態を定期的に確認し、必要に応じて補修を行います。
すでに建っている中古住宅を購入する場合
すでにある中古住宅を購入する場合には、以下に留意しましょう。
- 検査済証の確認
新築の場合と同様に、中古住宅を購入する時もすでに造成工事は終えられているはずですが、検査済証を必ず確認しましょう。 - 現地で擁壁等の状態を確認する
法律施行前の古い擁壁である場合は、確認申請をしていないものも。老朽化による改善命令を受けることも考えられます。その場合は、許可を得て造成工事を行う必要があるため、必ず現地へ出向いて擁壁等を確認しましょう。 - 工事履歴の確認住宅が建設された際に、宅地造成工事に関する許可が適切に取得されていたか確認します。許可が適切に取得されていない場合、後で問題が発生する可能性があります。
- 災害リスクの評価土砂災害や地盤沈下のリスクがある地域であるため、過去の災害履歴やリスク評価を確認します。自治体や専門家からの情報を収集し、現在のリスク評価を理解します。
- 保険の確認新築同様、災害リスクが高い地域であるため、住宅保険や地震保険の適用範囲を確認し、必要に応じて適切な保険に加入します。
- 周辺環境の調査住宅周辺の環境やインフラ状況を調査します。特に、排水設備や道路の状況、周辺の開発計画などが住宅の安全性に影響を与える可能性があります。
- 住宅のメンテナンス履歴住宅のメンテナンス履歴を確認し、定期的な点検や補修が行われていたかを確認します。特に、基礎や擁壁、排水設備などの重要な部分のメンテナンス状況を重視します。
- 専門家への相談必要であれば、不動産業者、建築士、土木技術者などの専門家に相談し、住宅の安全性やリスクについての評価を受けます。専門家の意見を参考にすることで、購入後のリスクを低減できます。
- 自治体との確認地元の自治体に問い合わせ、購入を検討している住宅や地域に関する最新の情報を取得します。これには、将来の規制変更や開発計画などが含まれます。
宅地造成工事規制区域にある既存住宅を購入する際には、事前に詳細な調査と確認を行うことが重要です。住宅の安全性や災害リスクをしっかりと評価し、専門家の助言を受けることで、安心して住宅を購入し、長く安全に住むことができます。
マンションを購入する場合
マンションを購入する際に確認しておきたい事項は以下の通り。
- 建物の安全性規制区域内のマンションは、特に地盤の安定性や建物の構造が重要です。建設時に地盤改良が適切に行われているか、建物の耐震性や防災対策がしっかりしているかを確認しましょう。過去の地質調査報告書や建物の設計図面、施工報告書をチェックすることが大切です。
- 管理体制マンションの管理体制を確認します。管理組合がどのように機能しているか、防災計画や避難訓練が定期的に行われているかを確認します。管理体制がしっかりしているマンションは、災害時の対応も迅速かつ適切です。
- 保険加入の確認マンション全体の保険加入状況を確認します。地震保険や火災保険が適切に加入されているかをチェックし、自分が加入する個別の保険についても検討します。
- 周辺環境の調査マンション周辺の地盤や環境を調査します。過去の災害履歴や自治体のハザードマップを確認し、マンションが立地する地域のリスクを把握します。また、周辺のインフラ整備状況や避難経路も確認しておきます。
- 将来的な維持費用規制区域内では、地盤や構造物のメンテナンスが重要です。将来的にどの程度の維持費用が必要になるか、修繕積立金の計画や実績を確認し、予算を見積もっておきましょう。
- コミュニティの意識マンションの住民同士が防災意識を共有しているかどうかも重要です。防災訓練や情報共有の仕組みがあるかを確認し、安心して暮らせる環境かどうかを判断します。
- 自治体の支援制度自治体による災害対策や支援制度についても確認しておきます。規制区域内に住むことによって利用できる支援制度や補助金があるかもしれません。
建物の安全性や管理体制、保険、周辺環境、将来的な修繕のための費用、住民の防災意識、自治体の支援制度など、多方面からの確認が必要です。
宅地造成等工事規制区域の土地や住宅を購入する際のデメリットとは?
規制区域では安全対策が厳しく求められるという大前提がありますが、その影響によるデメリットをお伝えします。
割高な可能性がある
宅地造成等工事規制区域の土地や住宅は、割高な可能性があります。
地盤改良や排水設備の整備などの追加の費用がかかるうえ、工事の許可を得るために必要な地質調査や計画書作成にも費用がかかり、そのために専門家に依頼する必要もあります。
また、こうした地域は土砂災害や地盤沈下のリスクが高いため、住宅保険や地震保険の保険料が高くなることも。さらに、定期的なメンテナンスが必要で、その維持管理費用もかさみます。
工期が長い
資産価値が低い
宅地造成工事規制区域内だからといって、必ず資産価値が無いというわけではありませんが、資産価値が低い可能性は大いにあります。
その理由は、まず災害リスクが高いという点。土砂災害や地盤沈下のリスクがあるため、多くの人がこうした地域での購入を避けがちで、結果として需要が低くなります。
また、すでにある擁壁が未許可で設置したものだったり、検査を受けていなかったりすると、売却時に悪影響を及ぼしかねません。
さらに、設置当初は検査を合格していても、時間の経過と共に擁壁も劣化するので、安全性の確認が都度必要となります。
そのため維持費や管理費が通常の土地や住宅よりも高くなり、資産価値にマイナスの影響を与えます。
将来的に売却する際にも、買い手が同じ規制や追加費用を負担しなければならないため、売却価格が下がることが多くなります。そもそも購入希望者が少ないため、売却までの期間が長くなることもあり、市場価値が下がり資産価値は低くなりやすいでしょう。
宅地造成等工事規制区域の土地や住宅を購入する際のメリットとは?
反対に、宅地造成等工事規制区域の土地を購入する際のメリットは以下の通りです。
価格が安い場合がある
災害リスクや規制があるため、通常の土地や住宅よりも購入価格が安く設定されていることがあります。これにより、予算に限りがある場合でも広い土地や大きな住宅を購入することができる場合があります。
自然環境が豊か
規制区域は自然災害のリスクがある反面、自然環境が豊かであることが多いです。山や川が近くにある場合、自然を楽しみながら暮らすことができます。
地域の整備が進んでいる
規制区域内では、安全対策として地域全体の整備が進んでいることがあります。これには、排水設備の整備や防災対策の強化が含まれ、住環境が改善されている場合があります。
将来的な価値向上の可能性
規制区域内の土地や住宅が将来的に規制緩和やインフラ整備により、価値が向上する可能性もあります。地域の発展や公共事業の影響で、資産価値が上昇することが期待できることもあります。
コミュニティの強化
規制区域内の住民は、災害リスクに対する共通の意識を持つことが多く、コミュニティの結束が強い場合があります。地域社会の支え合いや協力体制が整っていることが多いです。