家を建てるために土地探しをしている時や、住み替えのために中古住宅を探しているとき、「要セットバック」という表記を見かけたことはありませんか?
セットバックは不動産や建築業界で「後退して離す」ことを指します。
今回の記事では、セットバック物件がなぜ必要なのか、どのようなものか知りたいあなたのために、セットバックの意味や注意点を解説していきます!
正しい知識を身につけて、リスク回避していきましょう。
「セットバック」の意味とは?
セットバックとは、「後退」を意味します。
不動産業界や建築業界では、敷地や建物を道路などの境界線から「後退して離す」という意味で使われます。
なぜセットバックが必要になるのか、それは建築基準法の『接道義務』によって定められた規定があるからです。
『接道義務』は災害などが起こったときに緊急車両がスムーズに建物に近づけるようにと作られた法律です。
消防車の規格が変更されたことなどにともなって、昭和54年に法改正が行われ、接道の基準値が変更となりました。
【以前】幅員3.64m以上の道路に、敷地が1.82m以上接していること
【現在】幅員4m以上の道路に、敷地が2m以上接していること
※幅員…道路の幅のこと
しかし、法改正により数センチの差ができたことで、法改正前には基準値を満たしていたはずの家が、法改正後には基準値に足りず「法律違反」になってしまうことになったのです。
とはいえ、すでに人が住んでいる家をすぐに取り壊すというのは難しいので、「次に建築するときは新しい基準まで土地を後退させる」ことが定められました。
その後退が「セットバック」です。
ゆえに現状、幅員を4m確保していない道路に面している土地には「要セットバック」が表記されています。
また、建て替え時にセットバックされる予定のスペースのことを「後退道路用地」と呼びます。
セットバック幅の計算方法
自分の建物(土地)から対面の建物の間に道路がある場合、道路の中心線からそれぞれ等しく必要な幅を分担することになります。
例えば、元の幅員が3mあると仮定します。
そこから、『幅員4m』を確保するには『1mの幅』が必要になります。
そうなると、それぞれの建物が道路の中心から『50cmセットバック』することになるのです。
ただし、もとの幅員を測るときに反対側の建物がすでにセットバックをしているかどうかを確かめる必要があります。
というのも、向かいの建物がすでにセットバックをしている場合と、セットバックがまだされていない場合では、道路の中心線の位置が異なるためです。
向かいの建物がセットバックをしているかどうかは見ただけでは分かりづらいため、市役所の建築指導課に確認をとるようにしましょう。
向かいが川のときの計算方法
次に、道路の向かい側が建物ではなく川や崖、線路などの場合、境界線を動かすことはできません。
そのため、建物のある側だけで4mの道路幅を確保しなければならなくなります。
接道が私道・公道でも建築可能
建築基準法で認められている道路であれば、接道(※)が公道であっても私道であっても家を建てることが可能です。
それはセットバック要件の場合でも同じです。
ただし、接道が私道だった場合、セットバック後の管理団体や税金額が通常と異なるケースがあるので、建築前・セットバック前に確認しておきましょう。
※接道…建物を建てる敷地に接している道路
セットバックを設けるメリット・デメリット
セットバックを行うことのメリットとデメリットをご紹介します。
<メリット>車の出入りがしやすくなる
セットバックを行ったあとの道幅が4mあれば、駐車時に切り返しを少なくすることができます。
よって車の出し入れがしやすくなるのは大きなメリットといえるでしょう。
また、対向車とのすれ違いも楽々行うことができますよ。
<メリット>セキュリティー面が高い
法改正前に建てられた家が並んでいる通りでは、建て替え時に順番にセットバックされていくことによって道幅が整っていきます。
すると見通しが良くなり、通行も便利になります。
開放的になることで、怪しい行動人物がいれば悪目立ちし、犯罪を未然に防止できる可能性が高まります。
<メリット>セットバック分の税金は逃れる
セットバックを行うと、セットバック部分の土地は道路と同じ扱いとなり、誰でも通行が可能になります。
自由に使うことができないぶん、セットバック部分の土地については、固定資産税や都市計画税が免除されます。
<デメリット>セットバック費用も負担
『要セットバック』の土地は、購入後に自分でセットバックをしなければいけません。
つまり、何も建てることができない土地まで購入し、セットバックの工事費用も負担するということです。
一般的に、セットバックの工事費用は25〜60万円程度といわれています。
ただし、土地に高低差があったり、大きな石が埋まっていたりとスムーズに工事が進まない要因がある場合は、要因を取り除くための追加費用がかかってしまうこともあります。
費用を負担してくれる自治体も一部あるようですが、一般的には土地の買い主が負担することになるのでしっかり確認して購入に踏み込みましょう。
<デメリット>門・塀など私的に使う事はできない
セットバック部分の所有権は、セットバックした敷地の所有者にありますが、扱いは道路と同じになります。
交通を妨げる要因になり得るため、駐車・駐輪スペースにしたり、看板や花壇を置いたり、塀や門などの建築物を造ったりすることができないのです。
つまり、所有権はあるもののセットバック部分は、完全に道路として提供しなければいけません。
要セットバック物件を購入で後悔しないための注意点
購入したい土地が要セットバック物件だった場合にどのような点に注意し、確認すればいいかお伝えします。
セットバック部分は敷地面積ではない
要セットバックの土地を購入する時には、セットバック部分の土地も込みで購入しなくてはなりません。
しかし、先ほどもお伝えした通り、道路と同じ扱いとなるため、建物の建ぺい率や容積率の計算からは除外されます。
セットバック部分は敷地面積に入れることができないのです。
仮にセットバックが50cm必要な場合、購入した全体敷地面積から50cm分の敷地面積(土地)がとられ、狭くなります。
事前にセットバックをしたあとの敷地面積を計算しておき、建築面積や延べ床面積がどのくらいとれるのか、どのような広さ・間取りの家が建てられるのかを把握したうえで建築計画をたてることが大切になります。
セットバック部分の費用負担は誰か確認する
先ほどデメリットの部分でご説明した通り、セットバックの工事費用を土地の買い主が負担するのが一般的です。
この場合、全額負担の場合と自治体から補助金が出るケースもあるので必ず確認しておきましょう。
工事費用の負担については、土地を購入する前に道路管理者に確認することができます。
非課税申請は必ずお住まいの自治体で行う
メリットにあるように、セットバックを行ったスペースの税金は免除されます。
ただし、役所が勝手に税金を減額してくれるわけではなく、こちらから非課税申請をしなければいけません。
固定資産税の非課税申請の提出先は、土地が所在する役所となります。
セットバック前の申請や担当者の立ち会いが必要な自治体もあるため、工事を進める前に、まずは役所に確認してから工事の計画を建てるようにしましょう。
中古不動産の場合、セットバックを要確認
将来、建て替えることも視野に入れて中古住宅を買う場合は、必ずセットバックが必要な土地かどうかの確認をしておきましょう。
要セットバックの中古不動産を購入し、建て替えずに住んでいる間はセットバックの工事は必要ありません。
ただし、家を建て替えるタイミングでセットバックの工事を必ず行う必要があります。
建て替え時には、セットバックした敷地を除いた土地面積で建ぺい率、容積率が適応されるので、多くの場合はもともとの建物と同じ広さの家は建てられません。
建て替えたあとに「思ったよりも狭くなってしまった…」という失敗がないように気をつけましょう。
まとめ
要セットバック物件は、手間がかかる部分もあり購入にあたっては注意が必要になりますが、その分リーズナブルな値段で購入することができます。
道路の幅が狭い土地を購入する場合は、「セットバック」という言葉を思い出し、地域の自治体に確認するようにしましょう。
あなたと家族にとって快適で暮らしやすい家を建てられることを願っています。