経年劣化とは?通常損耗との違いや分譲・賃貸に共通する破損ポイントを解説

賃貸物件を退去するとき、修繕費用をいくら支払うことになるのかは、気になる問題ですよね。

「これって経年劣化じゃないの?」と、長く住んでいたら仕方のない傷や綻びもあるでしょう。

とはいえ、不動産会社に高額請求をされてトラブルに発展するケースも少なくありません。

そこで今回は、賃貸における経年劣化と通常損耗の違い、原状回復義務のある傷や汚れについて解説します。

敷金トラブルを避けるために、ぜひ参考にしてくださいね。

【記事監修】
嵯峨根 拓未(株式会社ドレメ 取締役(現場責任者))
資格:一級建築士、宅地建物取引士
戸建て住宅、ヴィラ、グランピング等幅広い物件の現場を経験。

実際の経験を基に、あなたのおうちの悩みを解決します

経年劣化とは?

経年劣化とは、何もしなくても部屋や建物などが自然に劣化していくことです。

賃貸マンション、アパートなどの賃貸契約においては、以下のようなケースが経年劣化に当てはまります。

  • 老朽化による建具のゆがみ
  • 金属ネジのサビによる音鳴り
  • 壁紙の色あせ

このような変化は、当然のことながら防ぎようがありません。

つまり、経年劣化によって起こる不具合は賃借人(借り主)に責任はなく、修繕費用も支払わなくて良いことになります。

 

通常損耗との意味の違い

通常損耗とは、生活するうえでどうしてもついてしまう小さな傷や汚れのことです。

たとえば、以下のようなケースが通常損耗に当てはまります。

  • 家具のへこみ跡
  • 冷蔵庫、テレビ裏の電気焼けによる黒ずみ
  • カレンダー、ポスターの画びょう跡

家具はそもそも重量があるため、フローリングにへこみ跡がついてしまうのは仕方がありません。

冷蔵庫やテレビも壁にくっつけて置くのが一般的なので、電気焼けによる壁の黒ずみも避けようがないことでしょう。

このように、どんな家庭でも起こり得る傷や汚れは、経年劣化と同じく入居者が補修費用を負担する必要はありません。

 

ただし、故意・過失による傷や汚れは「特別損耗」と呼ばれ、借り主の責任になるので注意が必要です。

  • 棚などを取り付けるためのネジ跡
  • 家具の引きずりによる傷
  • 子どもの落書き

これらは気をつけていれば防げるものなので、退去するときに借主負担で修繕しなければなりません。

 

 

分譲・賃貸物件に共通する経年劣化による破損ポイント

分譲マンションであっても、賃貸物件であっても経年劣化に該当するポイントは同じです。

この破損ポイントをしっかり理解しておかないと高額な修繕費用を請求されてしまう可能性があるため注意しましょう。

退去前に自身の目で確認してみてくださいね。

 

フローリング

フローリングは、経年劣化の対象にはなりません。

そのため、以下の2点をポイントに確認してみましょう。

  • 通常損耗による破損か?
  • 特別損耗による破損か?

先述したように、家具を置いたことによるへこみは通常損耗になります。

一方、家具を移動させようと引きずってできた傷、食べこぼしによるシミは、故意・過失による特別損耗とみなされます。

よって、借り主に責任が生じ、修繕費用を支払わなければならなくなるでしょう。

フローリングは経年劣化の対象ではないので、補修や張り替えをすることになった場合、建物自体の耐用年数に応じて費用の負担割合が決定されます。

 

畳は消耗品です。

基本的に、入居者が入れ替わるたびに交換するものなので、経年劣化の対象にはなりません。

そのため大家さん・オーナーが負担してくれることが多いでしょう。

しかし、通常の使い方では発生しない傷・汚れについては、修繕費用を請求される可能性があります。

  • ペットによる引っかき傷
  • 掃除や換気を怠ったことによるカビの発生
  • 子どもの落書き、など

「どうせ交換するから…」とボロボロの状態で退去するのはNGです。

 

壁紙

壁紙は、経年劣化の対象になります。

  1. 日光による日焼け、色あせは経年劣化
  2. 日常生活に必要なカレンダーを貼ったときの画びょう跡は通常損耗
  3. 引っ越しのときにモノをぶつけた傷、タバコのヤニ汚れは特別損耗[/su_note]

壁のボード下地の厚さ(約12mm)を超える長い釘を使用したときは、穴が大きく深いため、特別損耗として扱われます。

 

浴室

浴室は、湿気が多く汚れやすい場所なので、日々しっかりと掃除されていたかがポイントになります。

  1. パッキンの劣化、壁の黄ばみは経年劣化
  2. 掃除をしても発生してしまう汚れは通常損耗
  3. 掃除や換気を怠り発生したカビ、水垢、カラーリング剤によるシミは特別損耗[/su_note]

こまめな清掃、カビ対策をきちんとおこなっていれば、基本的に経年劣化・通常損耗の範囲になるでしょう。

ただし、汚れがひどいと判断された場合は、クリーニング費用を追加請求されることがあります。

退去する前に、排水口や鏡もふくめて徹底的に掃除しておくことをおすすめします。

 

その他

キッチン・トイレ・洗面台・エアコン・網戸などの設備も経年劣化の対象になります。

  1. 網戸のたわみ、コーキングの劣化、設備の黄ばみは経年劣化
  2. 日常的に掃除をしても落とせない汚れは通常損耗
  3. 掃除不足によるキッチンの油汚れは特別損耗
  4. トイレの黒ずみ、衝撃を与えたことによる洗面台のひび割れは特別損耗

通常の使い方をしているのに設備に不具合が起きたときは、借り主に責任はありません。

ただし「エアコンの水漏れをそのままにしたことによって床にシミができてしまった」など、不具合を放置したことによる損傷は、借り主の管理責任となるので注意が必要です。

 

 

原状回復・経年劣化についてQ&A

原状回復とは、故意・過失による破損を「借りたときの状態に戻すこと」です。

どんなときに原状回復をしなければならないのか、費用や相談先もあわせて解説します。

 

Q.原状回復義務があるものは?

特別損耗の傷や汚れについては、原状回復義務があります。

たとえば、以下のようなケースです。

  • ペットによる傷、臭い
  • タバコのヤニ汚れ、臭い
  • ボード下地を貫通しているビスの跡
  • 掃除を怠って大量発生したカビ

故意に傷つけることはもちろんですが、気を付けていれば防げるような過失による傷や汚れも、善管注意義務違反(※)となり、修繕費用も借り主が負担することになります。

※善管注意義務…民法第400条「善良なる管理者の注意義務」の略。
少々難しいように聞こえますが簡単にいうと「借りているものだから、傷や汚れをつけないように丁寧に管理して引き渡してくださいね」という意味。
この注意を怠って部屋を損傷してしまうと、善管注意義務違反となる。

 

 

Q.原状回復のお金はどうなる?

原状回復費用は、すでに支払っている敷金があればそこから差し引かれ、残りは返還されます。

特別損耗の修繕金額が、支払い済みの敷金よりも高かったときは、追加で支払うことになります。

 

ただし、原状回復することになったとしても、借り主が修繕費用を全額負担するわけではありません。

住んでいた期間、損傷したモノの耐用年数に応じて、負担割合を減少させるのが一般的です。

どのくらいの負担割合かについては、後述する「Q.耐久年数の目安とは?」を参考にしてください。

目立った損傷もなく、経年劣化・通常損耗のみであれば、基本的に大家さんが全額費用負担することになるでしょう。

 

Q.経年劣化かわからない時はどこに相談?

「これは経年劣化じゃないの?」「この傷は故意・過失になるの?」などの判断ができないときは、国土交通省の原状回復ガイドラインおよび契約条件をチェックしたうえで、不動産会社や管理会社に不明点を確認してください。

矛盾点などが具体的にあるのであれば、再度見直してもらえるように話すことで、費用負担が軽減されるケースもあります。

不動産会社にかけ合っても解決しないときは、消費生活センター、国民生活センターに相談してみましょう。

 

Q.雨漏り・風災など屋根修理に火災保険は使える?

賃貸契約の入居時に加入している火災保険は、突発的な事故によって引き起こされた破損にのみ使えます。

  • 強風で窓ガラスが割れてしまった
  • 台風で屋根が破損してしまった

このようなケースは、火災保険の対象になります。

 

一方、経年劣化による雨漏りについては、保険金がおりません。

例外として、雨漏りの直接的な原因が”繰り返される集中豪雨”によるものであれば、火災保険がおりる可能性はあります。

いずれにしても、あきらかに偶然かつ突発的な災害でないかぎり、原因を特定することは難しいでしょう。

火災保険を使えるかどうかは自己判断せず、火災保険申請の専門業者に調べてもらうのが確実です。

なお、火災保険を適用しても、その後の保険料は変わらないので安心してください。

 

Q.耐久年数の目安とは?

モノにはすべて耐久年数があります。

賃貸物件における耐用年数の目安は5~15年です。

耐用年数 設備
5年 キッチンの流し台
6年 壁紙、クッションフロア、カーペット、エアコン、インターホン
8年 金属製以外の家具
15年 便器、給排水設備、金属製の家具

先述したように、原状回復費用は借り主がすべて負担するわけではありません。

上記の設備ごとの耐用年数、入居期間に応じてその負担割合を減少させることができます。

出典:国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

たとえば、耐用年数6年の壁紙の原状回復費用に、合計4万円かかるとします。

あなたが住んでから3年で退去する場合、負担割合は50%です。

つまり、借り主であるあなたの原状回復費用は2万円の支払いで済むことになります。

なお、フローリングはそもそも耐用年数がないため、建物自体の耐用年数(木造22年、鉄骨造19~34年、RC造47年)を適用させて計算します。

 

 

まとめ

賃貸契約では、退去時の敷金・原状回復トラブルがとても多いです。

大きなトラブルを避けるには、『借り主の責任になるもの』『大家さんの負担になるもの』をしっかり把握しておくことが大切になります。

賃貸契約における経年劣化や損耗の範囲は、大きく3つに分かれます。

1.経年劣化
日焼けや金属のサビなど、人間の力ではどうすることもできない品質劣化
2.通常損耗
家具のへこみ跡、冷蔵庫の裏の電気焼けなど、日常生活を送るうえでどうしてもついてしまう傷や汚れ
3.特別損耗
子どもの落書き、掃除を怠ったことによるカビ、設備故障の放置など、故意・過失・管理責任不足による損傷

経年劣化や通常損耗は、借り主に責任はなく、修繕費用の負担はありません。

特別損耗の場合は、原状回復費用の一部を負担することになります。

立場の弱い一般の借り主が不利にならないように国土交通省の「原状回復費用ガイドライン」があるので、そちらもぜひ活用してください。

気持ちよく退去し、スッキリした気分で新生活を送りましょう!

 

 

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